10月29日に、八坂神社で草鹿式(くさじししき)が行われました。
草鹿式とは、細かな作法を守りながら鹿の形をした的を射る行事です。その由来は鎌倉時代の初めにまでさかのぼります。鎌倉幕府の将軍・源頼朝が富士の裾野に狩りに出かけた際、獲物を射とめることがうまくいかず「どうすればよいか」と家人(家来)に訪ねます。そこで頼朝の弓や馬の師範であった小笠原長清は武田氏とも協議し、皮で草を包んだ鹿の形の的を用意して稽古をすることを考案しました。当時は狩りの練習として馬に乗った草鹿式が行われていたそうです。
八坂神社で草鹿式を奉納されるのは弓馬術礼法小笠原流の皆様。約20m離れた場所の鹿の的を射るのですが、単に当てるだけでは的中とならないことの方が多いのです。的中と判定されるには、基本的には24カ所ある鹿の模様のような「星」の場所でなければなりません。さらには射る前から射終わった後にまで細かな作法に則る必要があり、手順を間違えると的中が取り消されるという厳しさです。しかし、やはり日ごろから稽古をされている皆様。思っていた以上にきちんと当てており素人の私はその技術の高さに驚かされます。射ている様子や問答の様子は動画もありますので、このページの下でご覧ください。
草鹿式が面白いのは、当たりを判定する的奉行と射手との問答。的には当たっても当たりと即座に判定してもらえないこともあり、射手は矢取りが矢を拾い上げる前に「矢な取りそ」と引き留めて、的奉行に問答を願い出るのです。例えば「星」に当たっても矢の跳ね返りが大きいと、当たりとは判定されずに問答へと持ち込まれます。具体的には、的に対して横に弓一張り、縦に弓二張り分の幅に入っている必要があり、問答では的奉行が射手の弓を借りてその幅を見定め、当たり扱いか外れ扱いかを検証します。
他にも射手が「良き矢(当たり)」だと主張すると、的奉行は「ならば矢所(当たった場所)は?」と訪ね、それが間違っていると的中にはならないといったものもあります。さらには当たっても「矢の落ち方が悪い」ので当たりにはならないとか、一旦当たりとは判定されなくても、八坂神社の神様に対して「まぎれもなき良き矢であった」と誓いの言葉を述べることで、当たりになるなど、意外なルールも様々にあるのが面白いでしょう。射手は、足の運び方やその歩数に至るまで、立ち居振る舞いの所作に決まりがあるため、最後まで気の抜けない緊張感もあるようです。
草鹿式は単に個人技で当たりを競うのではなく、先に射る前弓と後から射る後弓とのチーム戦で行われます。前弓と後弓とでは作法も違うそうです。今回は4人が2本ずつの弓を射て、3対4で後弓の勝ちとなりました。
コロナ禍もあって3年ぶりの奉納、私も久しぶりに目にしましたが、改めて興味深い行事だと思いました。機会がありましたらご覧になってみてください。
ガイドのご紹介
京都検定1級に5年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として10年以上。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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