今日(1日)は、まいまい京都さんの散策で、南山城の井手町にある玉川の桜と周辺社寺の散策を開催しました。ご参加頂きましてありがとうございました。
玉川は京都の南、井手町を流れる川で、堤防に沿っておよそ500本の見事な桜が咲き誇ります。八幡市の背割提と井手町の玉川提は南山城を代表する美しい桜並木だと思います。1日は散りの風情も楽しめ大変美しい眺めでした。ただ、実は気象予報士として、玉川の桜を語る際には必ず伝えておきたい出来事があります。玉川は、昭和28年8月14日深夜から15日未明にかけて未曾有の大水害に見舞われました。南山城大水害です。バケツをひっくり返したような激しい雨が降り、危険を知らせる役場の半鐘の音も聞こえないほどだったといいます。
最も雨が激しかったのは、現在の和束町付近。15日0時~3時の3時間雨量は200mmを超えるという、猛烈な雨となりました。1日で200mm降ることですら稀で危険であるのに、その雨量がたった3時間で降ってしまったのです。和束町の総雨量は428mmに達し、1年間で降る雨のおよそ4分の1が降ってしまったことになります。
この豪雨により、南山城に大被害が生じました。井手町の玉川では、上流部にあった「ため池」の大正池が決壊。濁流が流れ込んだ玉川は破堤し、南山城各町では最大の105名(107名とも)もの人命が失われました。付近の地質はもろく崩れやすいのが特徴で、普段から川は土砂を流し、特に南山城の小河川には「天井川」が多いという特徴があります。玉川も天井川で、一度あふれてしまうと被害は甚大になるのです。現在、JR玉水駅に流されてきた巨石が置かれています。近年駅舎が新しくなった際に撤去し掛かりましたが、地元の方の要望で残され、水害の恐ろしさを今に伝えています。
南山城大水害全体では、死者・行方不明者は336名、重傷者1336名、被災家屋5676戸もの被害となりました。実はこの水害では、京都市街地では星空が見えていたほどで、ほとんど雨は降っていません。こうした激しい雨の局地性から、報道で初めて「集中豪雨」という言葉が使われました。
全国の気象予報士の中にも、この南山城大水害をご存じの方もおられることでしょう。私もその一人として、やはり伝えて行かなくてはと思います。現在の玉川沿いの桜は、玉川が復旧整備された昭和35年に植えられたもので、時を経て立派に成長した桜が地元の方の目を楽しませています。
また、玉川は古い歴史を秘めた場所でもあります。奈良時代に「井手左大臣」と呼ばれた橘諸兄(たちばなのもろえ)は、玉川の美しさにひかれ、井手の地に館を建て玉川の水を引いて、山吹を楽しんだと言われます。橘諸兄といえば、奈良の大仏を建立した聖武天皇の時代、藤原四兄弟亡きあとの政界に重きをなし、後に藤原仲麻呂と権力を争った第一人者。日本史上では有名な人物です。
南山城は奈良の都からの距離も近く、現在の印象とは大きく異なって栄えていた土地でした。橘氏の氏寺・井出寺(井堤寺)は都の官寺に匹敵する大規模な寺域を持ち、橘諸兄の墓と伝わる場所も井手町に残されています。橘諸兄は山吹を好んで邸宅に植え、さらには玉川沿いにも植えたと伝わります。今でも玉沿いには、なんと1万2千本もの山吹が植えられて、桜が終わった後には川沿いが黄金色に染まるところも玉川の魅力です。これからの季節、天気の良い日は美しい玉川沿いへお出かけするのも面白いでしょう。
地蔵禅院のしだれ桜は玉川のソメイヨシノよりも早咲きで、1日の段階では見頃過ぎでしたが、高台に生える風格は十分に感じることができました。なお、 井手寺(井堤寺)の五重塔の基壇と見られる遺構が2021年に発見されました。井手寺の規模を物語る大発見で、現在その場所に建設中の井手町の新庁舎内では、基壇の遺構を踏まえた設計になるようです。また、訪れるのを楽しみにしています。
ガイドのご紹介
京都検定1級に6年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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