13日に京都府立植物園を訪れると「奈良の八重桜」が咲いていました。
京都の桜も終盤となってきています。個人的に今年もサトザクラの写真を撮りに方々へ足を延ばし、実は13日は東京の荒川堤に訪れてとんぼ返りという強行軍でした。サトザクラは人が熱い思いを込めて守ってきたり作出してきたものが多く、ひとつひとつの桜にまつわるエピソードを調べていくのも大変面白いです。京都では府立植物園に貴重な桜が集まっています。14日~16日には「サトザクラ展」があり、13時から各回30名定員で職員さんによる園内の桜散歩の解説もある予定です。
さて、「奈良の八重桜」は大変な遅咲きで、桜品種見本園の中でも「クシロヤエ」と並んで最後に咲く桜ではないでしょうか。この桜は、百人一首にも選ばれている「いにしへの 奈良の都の 八重桜 今日九重に 匂ひぬるかな(伊勢大輔:いせのたいふ)」の歌に詠まれた桜といわれます。
中宮・藤原彰子に仕えて間もない伊勢大輔は、奈良の興福寺から宮中へ送られた”奈良の八重桜”の受け取り役を紫式部から譲られ、道長をはじめ多くの貴族が注目する中、即興でこの歌を詠みました。「いにしへ:今日」「八重:九重(宮中)」が対比され、古都奈良の八重桜の美しさと、宮中の繁栄を同時に讃える見事な歌です。今日には「京」、九重には「ここの辺(へ)」の意味もあります。
中宮彰子は「九重に にほふを見れば 桜狩 重ねてきたる 春かとぞ思ふ」と返歌を送り、京の桜に続く遅咲きの奈良の八重桜の美しさと伊勢大輔の秀逸な歌に高揚した気持ちがうかがえます(ただし、この返歌は紫式部が代作したともいいます)。
大正時代に三好学博士によって東大寺の知足院で再発見された八重桜がこの「奈良の八重桜」で、その後、奈良県の県花、奈良市の花にも制定。奈良市の市章にも奈良八重桜が使われているとのことです。奈良ではこの時期に見られる桜として知られます。京都でもこうして目に出来ることに感謝するばかりです。花の時期は短いとのことですので、ご覧になりたいという方はお早めに訪れてみて下さい。
ガイドのご紹介
京都検定1級に6年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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