14日に常照皇寺を訪れました。御車返しの桜が見事に咲いていました。※現在は散っている可能性が高いです。
常照皇寺へは、京都市街地から車で約1時間半。京都市ではありますが、ずいぶんと遠い場所です。しかしその分、京都の桜の最後にふさわしい見ごたえのある桜が待っています。有名なのは、国の天然記念物にもなっている「九重桜(ここのえざくら)」。この桜は周辺では早咲きで、市内で紅枝垂れ桜が見ごろとなる頃に訪れるとよいでしょう。九重桜とその後継木は葉桜となっていました。樹齢600年以上ともいわれ、開山当初からと伝わる元の桜はかなりの古木となっており、咲かせる花もほんの僅かとはなってきましたが、花の美しさは老いも若きも変わりません。なんとか今しばらく、悠久の歴史を秘めた素晴らしい花を見せてほしいと願います。
また、京都御所・紫宸殿前にある左近の桜を移した「左近の桜」もありますが、こちらも14日の段階でほぼ散った状態でした。2012年に訪れた際に、散り際が大変美しかったことを思い出します。当時の動画を掲載します。
方丈前の桜は「御車返し(みくるまがえし)の桜」と呼ばれます。突然変異で八重と一重(ひとえ)を同時に咲かせる純白の美しい桜。「御車返」や「御所御車返」という桜は、桜の園芸品種としてもあり、伝説も少しづつ変化しながら全国的に見受けられます。常照皇寺の御車返しの桜は、江戸時代の初め、後水尾天皇が寺を訪れた際に目にし、あまりの美しさに何度も車を返したところからそう呼ばれています。実は今の桜は2代目で、初代の幹も隣に残されています。
常照皇寺は、北朝初代の天皇、光厳(こうごん)天皇が晩年を過ごしたお寺として知られます。北朝の天皇ということで、歴代天皇の代数には一般的には加えられていませんが、天皇が生きた時代は、まさに激動。先代が鎌倉幕府の討幕を画策した後醍醐天皇でした。後醍醐天皇は倒幕に失敗して退位させられ、鎌倉幕府によって立てられたのが光厳天皇でした。
しかし諦めない後醍醐天皇は、各地の武士を味方につけ、鎌倉幕府を滅亡に追い込みます。そして京都にあった幕府の本拠地・六波羅探題も、足利尊氏らによって攻め落とされるに至りました。その際、光厳天皇は六波羅から鎌倉へと落ち伸びる一行に同行しますが、各地で野伏(のぶせり)と呼ばれる、武装した農民集団による落ち武者狩りにあい、一行の人数は次々に減っていきます。倒せどもやり過ごせども次から次へと現れて、行く手を阻む野伏。とても鎌倉までは辿りつけないと考えた六波羅の武士たちは、光厳天皇が見ている前で、切腹して果てました。天皇の心中はいかばかりであったでしょうか。やがて光厳天皇は捕えられて京に送られますが、新政権のトップに立った後醍醐天皇によって、その即位の事実自体が否定されてしまいます。
その後は、後醍醐天皇と敵対した足利尊氏に上皇として院宣を与えるなど、北朝方として歴史にかかわった光厳上皇。室町幕府の成立後は安定するかと思いきや、南朝方によって拉致されるという憂き目にもあってしまいます。光厳上皇は、南朝によって連れ去られた大和の地で出家を果たし、5年を経て京に戻った後も、俗世を離れて禅の修行に打ち込みます。やがて光厳上皇は、京都の北にある山深い常照皇寺に住み、静かな余生を過ごしました。
常照皇寺は、光厳上皇のこうした波乱に満ちた人生を知ってから訪れると、また違った思いがよぎることでしょう。ちなみに、上皇は山国納豆ゆかりの人物としても知られます。紅葉も綺麗なお寺ですので、機会がありましたら足を伸ばしてみてください。
ガイドのご紹介
京都検定1級に6年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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