京都府の南部、笠置寺(かさぎでら)は巨岩と磨崖仏、そして絶景に出逢えるお寺です。
笠置寺は、後醍醐天皇が鎌倉幕府倒幕の元弘の変に際して立てこもったことが歴史上有名なお寺で、特に戦前は参拝者が多かったそうです。また、巨大な岩に彫られた磨崖仏(まがいぶつ)でも知られ、本尊の弥勒磨崖仏は高さ15mもあります。残念ながら、弥勒磨崖仏は3度もの火災によって炎にさらされた結果、その姿は消え去り、現在は光背部分の輪郭だけが残されています。しかし、近年の技術の発達により、ほんのわずかに残された線の痕跡からや笠置曼荼羅図から復元された弥勒磨崖仏の姿が、正月堂の堂内や収蔵室で見ることができます。ぜひご覧ください。また、2021年の調査では立体像であったとの指摘もなされています。
笠置寺の創建は古く、2000年前から巨岩信仰にの対象になっていました。現地に立つとわかりますが、非常に大きな岩が至る所で見られ、神秘さを感じる気持ちも実感できるでしょう。こうした岩場の多い山容から、笠置山は修験道の行場としても古来から知られていました(現在は真言宗)。
「今昔物語集」では、弥勒摩崖仏にまつわる伝説が載ります。飛鳥時代に天智天皇の皇子(大友皇子)が笠置山の山中で鹿狩りをしていたところ、夢中になりすぎて危うく岸壁から転落しそうになりました。幸い一命は取り留めましたが、進退きわまって困り果てた皇子は、山の神に祈り、もし助かることができたら岸壁に弥勒物を刻んで供養しようと願をかけたのです。その後、無事に都に戻ることができた皇子ですが、山を去るとき、祈願したことを忘れないため笠を置いて帰り、そこから笠置の名がついたと伝わります。
後日、約束どおり皇子が山中に訪れると、一羽の白鷺が導いてくれました。そこから「かさぎ」は「鹿鷺」とも書くようになったそう。伝説では、弥勒磨崖仏を彫る際、岩のあまりの大きさに、また皇子が困っていると、天人が舞い降りて、みるみる間に彫り上げたということです。実際の調査では、奈良時代中期には弥勒磨崖仏は彫られていたことがわかっていて、天人も中国から来た渡来人を差すと考えられています。なお、笠置寺では狩りに来たのは天武天皇(大海人皇子)だったとの伝承もあり、創建の経緯は複雑ではあります。
寺は奈良とのつながりが深く、弥勒磨崖仏の下には、東大寺の開山である良弁の弟子、実忠が建立したと伝わる「正月堂」があります。奈良の東大寺には二月堂・三月堂がありますが、実は正月堂は二月堂で行われる「お水取り」に関わっています。実忠が天平勝宝4(752)年に、二月堂で初めてのお水取り(十一面悔過:じゅういちめんけか)を行った際、先んじて正月堂で正月1日から27日間、昼夜六時の行を修したと伝わります。また、鎌倉時代の奈良仏教界のエースとして活躍した解脱上人・貞慶は笠置寺を拠点のひとつとし、母を供養するためという十三重石塔が本尊の近くに建てられています。
笠置寺の境内は今でも行場になっていて、巨岩の間を通り抜け、あるいは乗り越えながら散策することができます。正月堂を過ぎると、いよいよ行場の雰囲気が強まって巨岩が迫り出してきます。寺内の磨崖仏で最も美しく残っているのは虚空蔵磨崖仏。寺伝では弘法大師・空海が一夜にして彫りあげたと伝わりますが、本尊と同じく奈良時代の渡来人の作とも平安時代の作ともいわれています。虚空蔵磨崖仏の前に立てば、その大きさに圧倒されることでしょう。足場が狭く、磨崖仏をほぼ真下から見上げるような形になるため、余計に大きく見えるのかもしれません。線は大変くっきりと残っていて、当尾の石仏群などと比べても、その美しさは京都の磨崖仏でも指折りだと思います。
他にも胎内くぐりや、木津川や山々の絶景を望める平等石という大岩、元弘の変の際に奇襲用の石として据えられたといわれる”ゆるぎ石”、蟻の戸わたりと呼ばれる、蟻のように一人づつしか進めない狭い岩場もあります。さらに先に進むと、元弘の変で後醍醐天皇が入られた行在所跡も出てきます。笠置寺へは自家用車で行くことができるほか、JR笠置駅から坂道を登っても行くことができます。なかなか険しい道のりですが、巨岩に囲まれ、絶景も堪能でき、興味深い歴史も秘めたお寺です。是非一度は、訪れてみて下さい。
ガイドのご紹介
京都検定1級に6年連続の最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。BS朝日「あなたの知らない京都旅」、KBS京都(BS11)「京都浪漫」出演。特技はお箏の演奏。
【オンラインサロン】吉村晋弥のマニアック京都サロン を募集中!
「まいまい京都」さんで『【オンラインサロン】吉村晋弥のマニアック京都サロン』を募集中。毎月第2水曜日20:00~21:30頃の配信と、月1回程度のサロンメンバー限定ツアーにご参加いただけます(ツアーは別途参加費が必要です)。詳細はリンク先をご覧下さいませ。
散策・講座のお知らせ
- 【散策を受付予定!】
12月19日(火)13時30分~16時頃
知られざる京都御苑 桂宮邸跡から公家町がよみがえるVR映像シアターまで - 【新講座を開催!】
奥深い京都へのいざない!マニアック京都講座(12月~3月を受付中!) - 【講座を受付中!】
【配信講座】京都の定番スポット徹底解説 12月(最終回)
「過去の講座動画」を販売中!
- 【まいまい京都で受付中!】
12月17日(日)14時~16時30分頃
【御所東】寺町通5つの古社寺めぐり、清浄華院から廬山寺、下御霊神社まで
1月9日(日)09時20分~12時頃
【十日ゑびす】商売繁盛、福徳の祭り!ご利益たっぷり☆ゑびす社巡り