二条城 本丸御殿の公開

9月1日より二条城の本丸御殿の公開が始まりました。

二条城 本丸御殿

二条城では、本丸御殿の公開が9月1日~始まっています。早速初日に訪れました。江戸初期に二条城が拡張された際に設けられた本丸御殿は、1788年の天明の大火で焼失しており、幕末に徳川慶喜が本丸の北側に仮御殿を建てたそうですが、明治になって撤去されていました。その後、二条城は明治17(1884)年に二条離宮となり、現在の本丸御殿は明治27(1894)年に現在の京都御所の北にあった桂宮本邸の建物を、明治天皇の命で移築したものです。

二条城 本丸

桂宮本邸は、江戸後期の嘉永2(1849)年までに整備された御殿で、嘉永7(1854)年京都御所が焼けた際には、時の孝明天皇の仮皇居になり桂御所とも称されました。皇女和宮が徳川家茂に嫁ぐ前には、その住まいとして使用されたこともあります。明治時代には桂宮家の淑子(すみこ)内親王が居住していましたが、明治14(1881)年に薨去され、桂宮家は断絶。その後明治27(1894)年に邸宅が二条城に移築されることになりました。移築に際しては「玄関」、「御書院」、「御常御殿」、「台所」、「雁の間」を再構成して配置しており、桂宮本邸時代の配置や規模がそのままではない点に注意が必要です。

二条城 本丸

二条城の本丸御殿(旧桂宮本邸)は、明治に至るまで京都御所周辺に立ち並んだ公家や宮家の建物が、場所を変えながらも現存しているという点で大変価値があり、大規模な宮家の御殿としては日本唯一といえるもので、国の重要文化財指定を受けています。なお、京都御苑内の桂宮本邸の跡地は2022年より公開が始まっており、跡地には当時の庭園や建物の間取りが白い線で引かれ、実際の配置を思うことができます。ぜひ、本丸御殿として移築された建物をご覧になる方には、桂宮本邸の跡地も訪れていただきたいと思います。

二条城 本丸御殿

さて、本丸御殿は2017年からの修復を終え、9月1日から18年ぶりに一般公開が始まりました。料金は入城料や二の丸御殿の観覧料とは別に1000円です。原則事前予約制で、予約は30日前から開始され、私が9月1日分を予約したのは8月2日になります。1か月前ではなく30日前というのに注意が必要です。予約開始時間は午前0時を過ぎれば可能なようで、私は未明の時間帯に予約手続きを行いました。20分おきの時間設定があり、各回15名の定員となっています。

二条城 本丸御殿は原則事前予約だが当日券もある

一方、事前予約枠とは別に、二条城の東大手門を入って左手側の総合受付にて、当日券の設定も少しあるようです。ただ、9月1日の昼過ぎに訪れた時には、当日分も売り切れとなっていました。ネット予約では平日には数日前でも空きがある時間帯が見られますが、土日祝は当面人気であることが予想されるため、確実に見たいという方は、基本的には事前予約をしておくとよいでしょう。観覧休止日もあるので、事前にご確認ください。

二条城 本丸御殿までは遠い

また、本丸御殿は城内入り口の東大手門からは距離があり、時間に余裕をもって入城する必要があります。東大手門から二の丸御殿を見ずに最短距離で向かっても徒歩約15分(約750m)ほどかかり、二の丸御殿や二の丸庭園を見てから行く場合は、東大手門を入ってから45分くらいは要するのではないでしょうか。時間には十分にご注意ください。

二条城 本丸御殿

本丸御殿の玄関での受付は到着の方から随時案内されていました。また、本丸御殿内は飲食禁止のため、玄関を上がる前に内部では飲み物を飲めないが大丈夫かを確認されます。事前にのどを潤しておくとよいでしょう。観覧の注意事項に関する詳細はホームページでご確認ください。

二条城 本丸庭園

さて、本丸御殿の玄関で受付を済ませると、まずロッカーのある部屋(使者の間)に案内されます。荷物はここで預けて鍵を掛けます。コイン式ではない無料のロッカーです。御殿内は撮影禁止ですが、メモについては現地の職員にお聞きすると、紙に書く場合はボールペンならOKでシャーペンは芯が折れて落ちる恐れがあるので遠慮してほしいとのこと。スマホ・iPadでのメモは大丈夫とのことでした(写真撮影はNGです)。こうした対応は公開初日のためか、職員の方もつど上役の方に確認をしながらといった様子でした。今後メモも全面禁止など対応が変わる可能性もあるため、ご注意ください。

二条城 本丸御殿

続いて通されるガイダンス映像を見られる部屋(殿上の間、公卿の間)へは随時入れるわけではなく、前に入った方々の映像投影が終了してから通されますので、入れ替わりのタイミングまでロッカーの部屋で待つことになります。ガイダンス映像は約8分で、本丸御殿の来歴や簡単な見どころについて解説があります。別途、紙のパンフレットを御殿に入る際に頂けるため、映像が終わると紙のパンフを見ながら、各自で御殿内を見学という流れでした。注意点は、畳のヘリがシルクだそうで、踏まないようにと言われます。職員が引率しての解説が無い分、内部の見学時間は各自のペースで構わないため、私のようにじっくり眺める方もいれば、足早に先に進む方もおられました。要所要所には職員の方がおられるため、簡単な質問であれば答えていただけました。

二条城 本丸御殿

見学経路は一方通行で進む流れで、ガイダンスを見た玄関からは、まず御書院(ごしょいん)へと進みます。主人と対面者の公式の面会の場で、一の間から三の間まで襖を外すと通しの空間として使うことができます。主人が座す一の間は一段床が高くなっています。また、三の間は畳を外すと能舞台にも変えることができる造りとのことでした。レトロな雰囲気の照明は、移築後の明治・大正期に整備された時のものだそうです。

二条城 本丸御殿

続いて、御書院から廊下を進んで、御常御殿へと進みます。こちらは主人の日常の住まいだった空間。外観は2階建てで、現在は1階のみの公開です。修復前(18年以上前)は時折2階の公開もあり、私も訪れた記憶がありますが、職員の方にお聞きすると、2階の一般公開の予定はないとのことでした。いずれまた2階からの眺めを楽しめる日が来ることを期待したいです。

二条城 本丸御殿

御常御殿は日常のお住まいの場であったため、風呂があるのも特徴です。二条城は二条離宮だった時代もあり、明治天皇が宿泊をされたり、皇太子時代の大正天皇も好まれ10回余り宿泊をされたとのことです。庭では犬の散歩も行ったのだとか。襖絵は文久2(1862)年、淑子内親王が桂宮家の当主となった頃に描かれたもので、公開されていた「松鶴の間」では、京都御所の諸大夫の間の襖絵も手掛けた狩野永岳の筆による鶴の絵と池の青色が目に鮮やかでした。こうした襖絵はレプリカではなく江戸時代の本物で、今回の修理に当たり全237面すべてに劣化を抑える処理がなされたとのこと。なお、御常御殿はすべての部屋が公開されているわけではなく、襖絵を守るために、公開する部屋を折々に変えるとのことです。次は11月20日から公開する部屋が変わり、スケジュールはホームページで公開されています。

二条城 本丸御殿

また、各所廊下や壁には唐紙が施されているのも特徴。御書院廊下の七宝文様は、銀砂子が用いられているそうです。障子は「石垣張り」で、継ぎ目が細く繊細です。天井は竿縁天井の部屋が多かったですが、御書院一の間は格天井でした。今回の修理では耐震面で補強がなされ、各所に鉄骨の補強がむき出しになっているところが見られます。あえて隠すのではなく、文化財・世界遺産としても、補強部分を明らかにわかるようになじませていないとのことでした。また、経路終盤で目にできた中庭を覗くと、御殿の外側に補強部分が見えたりもします。玄関の公卿の間の建具は両脇が補強材となっているそうですが、普通に見ると気が付かない自然さ。様々な工夫もなされています。

二条城 本丸御殿

御常御殿を一周すると、来た廊下を引き返し、御書院の見ていない残りの部屋を見ることができます。四季の間という4つの部屋が田の字型に区画された部屋があり、夏の間・秋の間・冬の間を間近で見ることができました。春の間は夏の間の奥に見え、部屋の境には「卍崩し」形の欄間があるのが特徴です。桂離宮にもよく似たデザインの欄間があり、桂宮家にふさわしい意匠と言えるでしょう(なお、桂離宮の欄間は非公開)。四季の間の襖絵は農村の米作りの様子を描いたもので、高貴な方が口にするお米がどのように作られているのかを、こうした襖絵から学ぶ目的もありました。また、農民の姿に女性の姿があるのも特徴で、江戸時代に淑子内親王のために描かれたためだそうです。冬の間、秋の間の向かいに雲鶴の間があります。襖がすべて雲鶴文様の唐紙であることから、明治天皇によって「雲鶴の間」と命名されました。

二条城 本丸御殿

さらに、家来や従者の部屋へと見学経路は続き、襖絵にはガン(雁)の絵が描かれていることから「雁の間」と呼ばれます。絵は江戸時代の中島来章の筆で、7月の祇園祭の北観音山では、下水引の関羽誕生を祝う行列の下絵を描いた絵師でもあります。また、花車の杉戸絵も展示されていました。

二条城 本丸御殿

こうして一周をして玄関に戻ってきました。忘れずにロッカーで荷物を取り出して見学は終了です。久しぶりに目にした本丸御殿の内部。18年前に何を見たのか思い出せませんが(当時の私はガイドではなく、サラリーマンの一観光客でした)。宮様の御殿が現在に残る大変貴重な空間で、江戸時代に当代一流の絵師によって描かれた襖絵の本物を目にすることができ、新たな感動を得ることができました。当面、土日祝は予約が取りづらいかもしれませんが、30日前の予約解禁日などを狙って、お早めに予約を取って訪れてみてください。なお、今後は二の丸御殿が修復に入ってきます(令和6年度からの3年程度で課題の検討・設計を行い、令和9年度以降の工事着手を目指すとのこと)。両方の御殿を目にできる目先数年の期間は貴重かもしれません。なお、京都検定合格証を見せると、入城料の800円が10月末まで無料になります。

ガイドのご紹介 吉村 晋弥

京都検定1級に7年連続の最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。BS朝日「あなたの知らない京都旅」、KBS京都(BS11)「京都浪漫」出演。特技はお箏の演奏。

散策・講座のお知らせ

【散策を受付中!】
9月13日(金)13時30分~16時頃
萩の花がほころぶ常林寺と旧三井家下鴨別邸へ

【散策を受付予定!】
10月3日(木)午後 → 行先未定

【9月~の講座を受付開始!】
奥深い京都へのいざない!マニアック京都講座
9月「八瀬の里と赦免地踊り」、10月「嵯峨野の社寺(宝筐院、厭離庵など)」、12月「松ヶ崎と妙法の送り火」

【8月の講座 見逃し配信受付中!】
京都 紫式部ゆかりの地と気象の視点から考える「春はあけぼの」

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