月輪寺 雫を落とす不思議な時雨桜


愛宕山の山中には月輪寺(つきのわでら)があります。月輪寺には、時雨桜という不思議な桜があり、ちょうど今の時期、涙を流すように葉から輝く雫を落としています。

先日から書いている愛宕山レポート。愛宕山と麓の清滝愛宕山の道中と愛宕神社については、前回までのブログをご覧ください。今回はその続きです。さて、愛宕神社に参拝した後は、月輪寺を目指しました。今度は下りの険しい山道です。月輪寺への道は表参道以上の山道ですので、すれ違う人も少なく、しかも下り坂でも結構時間がかかります。以下すべて下りの時間で、愛宕神社の境内から月輪寺が40分からゆっくりで50分。月輪寺から麓へはさらに40分~50分。麓から清滝へは林道を抜けて30分ほどかかります。月輪寺の受付は15時30分まで。山道は暦上の日没前でもずいぶんと暗くなります。ご自身の足や天候、道の状況なども踏まえて、計画的にお進み下さい。遭難される方は、毎年必ず出るそうです。

月輪寺はそんな険しい愛宕山の山中に、古くからあるお寺です。かつては中国の五台山を模してそれぞれの峰に五つのお寺があり、朝日峯の白雲寺が現在の愛宕神社。他には大鷲峯の月輪寺と高雄山の神護寺が今も残ります。無くなってしまったお寺は滝上山の日輪寺と鎌倉山の伝法寺で、今やその場所もよくわからないそうです。山中で法灯を伝えるのは本当に大変なこと。実は月輪寺はその不便さもあって、近年存続の危機に立ってます。険しい山中で道路はなく、水道やガスもありません。現在は物資運搬用のリフトも壊れ、買い物は往復3時間。時には強力(ごうりき)を頼むこともあるのだとか。檀家も無く、資金不足も深刻だそうです。屋根は老朽化しており、時雨桜の手入れもままならないそう。しかしそれでも1000年以上も続くこの場所で存続をさせたいとお寺の方は考えておられます。京都を愛する皆様。月輪寺を通る際には少しばかりの志納金を入れて行って下されば幸いです。

月輪寺は空也上人・法然上人・親鸞聖人などの宗教者とも関わりを持ち、鎌倉時代初期の公卿・九条兼実はこのお寺に隠棲したともいわれます。現在も残る寺宝は素晴らしく、重要文化財の仏像を8体もお持ちです。一度見たら忘れられない、目をギョロリと見開いた独特の作風の空也上人像など一見の価値があるのですが、拝観はお寺側の人手がないため要予約。しかも土日はご朱印の対応があるため平日のみ。さらに雨の日には湿気が多いので、仏像を守るために宝物殿を開けないそうで、拝観中止になることもあるそうです。まさに気象予報士の腕の見せどころのようなお寺ですが、拝観は1時間ほどかけてじっくり丁寧にご案内頂けるそう。実は私も拝観は行ったことがなく、機会を見て訪れたいと思っています。

境内はシャクナゲ(石楠花)が知られ、4月下旬から美しい花を咲かせます。石楠花は花の見ごろの期間が一週間ほどと比較的短く、山中にあって気軽には来れないこのお寺で、満開の石楠花に出逢えるのはラッキーなことでしょう。私が訪れた日(5月8日)は、本当に最後の散る間際の花が残ってくれていました。石楠花は明智光秀が植えたともいわれ、京都市の天然記念物に指定されています。

もう一つ明智光秀といえば、本能寺の変の前におみくじを引いた話が伝わります。一般的には愛宕神社(白雲寺)と言われますが、この月輪寺との伝承もあり、月輪寺ではおみくじを引くことができます。光秀は2回凶を引いて3回目に大吉を引いてから出立したと言われます。私も一回引いてみましたが、見事に凶(苦笑)それ以上はやめておきました。お寺の方によると、ここのおみくじは凶の数が多くしてあるそうです。凶は考え方を変えれば上り調子であるともいえ、大吉は反対に下り調子であるともいえます。凶を引いても、前向きにとらえていきましょう!

さて、時雨桜は4月から5月にかけて葉から雫を落とす不思議な桜です。この桜は親鸞聖人が植えたと伝わり、法然上人との別れを惜しんで、桜を通して涙を流しているのだといわれます。私が訪れた日は晴れた日でしたが、葉にはたくさんの雫が光り、風が吹く度にまさに時雨れのように涙を落していました。実際にその場で見ると、本当に不思議な光景。時雨れの時期は決まっていて、毎年春の4月から5月のみで秋には落とさないとのことでした。仏心というままにしておくのがよいのだとは思いつつも、科学的な理由が気になってしまいます。

他のブログでは、空也滝のしぶきが飛んできているとの説がありました。しかし、空也滝にも行って実際に見た感想からすれば、それはあり得ないでしょう。まず、空也滝から月輪寺の距離が離れすぎていて、標高は300mも違っています。300mと言えば、銀閣寺と大文字の火床との差(250m)よりも大きな標高差です。加えて空也滝の目の前に立っても、さほどしぶきは飛んできませんでした。水が落ちる方向も月輪寺のほうを向いてはいません。仮に空也滝から飛んできているとしても、境内の他の木々は雫を垂らしておらず、この時雨桜だけが雫を落とすのは不自然です。以上のことから、空也滝説はないだろうと私は考えています。

気象的な理由も考えてみましたが、湿気の多い日に雫を落とすことや特定の風向きで起こりえることはあるにしても、晴れて乾燥した日に、しかも4月から5月の特定の時期に、この木だけ雫を落とす理由は気象現象からは思い浮かびません。とすると、何が理由か?全国には時雨○○という木が他にもあります。京都では出水の七不思議で「華光寺の時雨松(枯死)」がありましたし、広島県の宮島にはかつて「しぐれ桜」があったそうで、近年愛媛の満願寺にあるしぐれ桜から株分けされて復活しました。他にも、兵庫の福海寺には清盛遺愛の時雨松の碑が、大分県別府市の天然記念物には海門禅寺のしぐれ松が、和歌山の大光寺にもしぐれ松があります。いずれも葉から雫を落とす不思議な木と伝わるもの。とすると、松や桜にはごく稀に雫を落とす木があると考えるのが自然でしょう。

ここからは私の想像ですが、根から過剰に吸い上げた水を、気孔ならぬ「水孔」という部分から出しているのではないでしょうか。春は植物の蒸散機能が活発になり、春の空が白っぽくなる一因ともなっています。つまり、根から吸い上げる水の量も他の時期よりは多いはず。加えて地面が湿っている環境下では、植物は気孔を使った蒸散が抑えられ、水孔を使って直接水を出しやすくなるそうです。考えてみると、月輪寺の境内にも湧き水があり、根の辺りにも水分は多そうです。また、水孔の機能は新しい葉ほど活性化しやすいそう。桜が散ったあとの4月~5月はまさに新しい葉が繁ります。そのよう環境の中で、過剰に水を吸い上げるようになった木が「時雨○○」として、葉から雫を垂らす不思議な木としてあがめられるようになったのではないでしょうか。月輪寺の時雨桜も、雫はどこかから飛んでくるものというよりも、木が自ら生み出しているものという印象を持ちました。ただ、以上のことは私の勝手な想像で確証は全くありません。もちろん、奇跡としておくのもよいとは思います。しかし、やはり理由が気になる(笑)植物に詳しい方がいましたら、是非原理を教えて頂きたいと思います!

さて、月輪寺を後にして再び険しい山道を下り、月輪寺からの道から林道に出た付近から、先述の空也滝へと再び坂を登ります。道のりは短くはないので、往復20分~30分程のお時間を見ておくことをお勧めします。かつて空也上人が修業をしたと伝わり、落差は12m、幅は1mのなかなかの滝。京都近郊では最大なのだとか。今でも仏の石像が並び、信仰を集めている場所です。また、愛宕山の七不思議のひとつに、空也滝の土砂を取るなというものがあります。土砂を取ると体の具合が悪くなるといわれます。

空也滝から林道に戻り、30分ほど歩いて無事に清滝へと帰ってきました。愛宕山はまさに一日がかりでちょうどよい山でしょう。天気予報をよく見て、十分な装備と心構えを持って頂いて臨んで下さい。7月31日夜の千日詣りの時には表参道は大勢の人でにぎわいます。私もまだ経験したことはありませんが、きっと幻想的な光景なのでしょう。いつか挑戦したいと思います。

ガイドのご紹介
吉村 晋弥(よしむら しんや)

吉村 晋弥気象予報士として10年目。第5回京都検定にて回の最年少で1級に合格。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。特技はお箏の演奏。

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