京都府北西部の久美浜湾は、たいへん美しい風景が広がる穏やかな湾です。

久美浜湾があるのは、京都府北部の京丹後市で、京都府の最西部にあたる地域。となりはもう兵庫県の豊岡や城崎(きのさき)です。久美浜湾は、湾とは呼ばれていますが、実際には潟湖(せきこ)で、小天橋(しょうてんきょう)と呼ばれる砂州によって日本海と隔てられています。淡水ではなく、海水と淡水とが混ざる汽水湖であるため、京都一大きい淡水湖の名は離湖に譲っているものの、旧熊野郡(現在の京丹後市久美浜町)の川はすべてが久美浜湾へと流れ込み、広大な面積を誇る風光明媚な水辺として知られています。

かつて、久美浜湾の約3分の2は「久美荘」で、中世最大の皇室の荘園群である長講堂領の一部でもありました。鎌倉時代に踊り念仏(時宗)を広めた一遍上人が久美浜湾の南地域である「久美の浜」を訪れた際に、水不足で困った村人のために雨乞いの踊り念仏を行ったところ見事に雨が降り出し、さらに水中より龍が現れて、人々を守護すると述べたという話も伝わっています。久美浜湾を望める丹後地域最高峰の山は高竜寺ヶ岳と呼ばれ、久美浜湾で毎年夏に行われているカヌー大会は「ドラゴンカヌー大会」と呼ばれるなど、現在も龍の伝説は人々に親しまれているようです。

戦国時代には久美の浜の家数は500軒を数え、戦国時代の末期から桃山時代にかけては、丹後を治めた細川氏の家臣である松井康之が入った松倉城を中心とする城下町として街並みが築かれました。現在も当時の地割りが残されているのも久美浜の特徴です。江戸時代には幕府の天領となり、1735年から幕末までは久美浜代官所も置かれていました。明治時代初期には「久美浜県」として県庁が置かれた時期があるなど、地域の中心地として栄えた久美浜。その後、1925(大正14)年の「北但馬地震」と、その2年後、1927(昭和2)年の「北丹後地震」の大きな被害を乗り越えて、現在は風情ある街並みと、四季折々に美しい湾の風景、海水浴や温泉、牡蠣、カニや果物の産地としても人気を集めています。

さて、久美浜湾の南側から湾岸に立つと目立つのが「兜山(かぶとやま)」です。標高191.7mの急峻な山は、まさに兜のような姿をしています。徒歩にはなりますが、山の上の展望台からは久美浜湾の素晴らしい景色が望め、昨年は雪の日に登った写真を掲載しました。一方、湾の南側から兜山を見ると「大」の文字が見えます。毎年8月9日は、大の文字に灯りがともり、花火が打ち上げられて、湾には燈籠が流される美しい光景が見られます。こちらも過去にブログでご紹介しました。湾は穏やかで、四季折々、時間帯によっても印象が変化していき、いつ訪れても素晴らしい眺めだと感じます。

今回は、久美浜湾の北をふさぐ小天橋からの外海(日本海)の眺めと、中井権次一統の彫刻を訪ねました。中井権次一統は、江戸初期の中井正清を祖に持ち、現在の兵庫県柏原(かいばら)を拠点として、江戸時代の中頃から昭和初期にかけて、丹波・但馬・丹後・播磨地域を中心に社寺建築に見事な彫刻を残している一派です。丹波・丹後の社寺を訪れるとその素晴らしい彫刻に魅了されることが多く、熱心なファンの方もおられます。特に躍動感のある龍の彫刻は感嘆するレベル。

私の手元には「中井権次顕彰会」が2015年に発行した足跡マップや、2020年に発行された「中井権次一統を中心とした装飾彫刻探訪記」があり、大変参考になります。足跡マップによると、久美浜周辺では昨年ブログでご紹介をした宗雲寺のほか、陵神社、蛭子神社内の日御碕神社、三嶋田神社の彫刻が、中井権次一統の作品となっています。今回は陵神社と蛭子神社内の日御碕神社を訪れました。

冬場とあって拝殿には風や雪をよける覆いが掛けられており、社殿彫刻の観察には向かない時期でしたが、それでも見事な作品を感じることができました。足跡マップによると、中井権次一統の作品として平成30年3月現在に確認されているのは、北近畿を中心に225カ所に上ります。本当に膨大で広範囲に及びますので、丹波・丹後にお越しの際は中井権次一統の見事な彫刻にも着目をしてみて下さい。

ガイドのご紹介

京都検定1級に6年連続最高得点で合格(第14回合格率2.2%)、「京都検定マイスター」。気象予報士として20年。これまでに訪れた京都の観光スポットは400カ所以上。自らの足で見て回ったものを紹介し、歴史だけでなくその日の天気も解説する。毎月第2水曜日にはKBS京都ラジオ「笑福亭晃瓶のほっかほかラジオ」に出演中。「京ごよみ手帳 2022」監修。特技はお箏の演奏。
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